村上春樹の口から語られる、作品世界の正体とは。

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『みみずくは黄昏に飛びたつ』(村上春樹×川上未映子)

先月の新刊、『ノルウェイの森』や最新刊『騎士団長殺し』で世界的に知られている村上春樹さんに、芥川賞作家の川上未映子さんがインタビューした内容の詰まった『みみずくは黄昏に飛びたつ』。

これまで語られなかった内容も含めて、全部で4度にわたる長時間のインタビューによって、村上春樹さん自身の深いところが、自身の言葉で語られている短編小説のようにどんどん引き込まれていく内容でした。

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以前読んだ『騎士団長殺し』についての本棚はこちら。

偶然性と必然性のはざまにある、絵画のような本。村上春樹の『騎士団長殺し』を読んで

今回は、そのインタビュー本の中で印象に残った点について、一つひとつ見ていきましょう。

村上ワールドの真髄は「地下二階」の世界にある

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本書92ページ。川上未映子さんによるイラスト。

「地下二階がたぶん、村上さんの行きたいところなんじゃないか」――そんな川上さんの問いかけから始まった、小説で描かれている世界の話。そんな問いから始まった「地下二階」をめぐる話は、本書全体を通してさまざまな話がされています。

「いわゆる日本の私小説が扱っている」のが、地下一階の世界。地上の世界は、僕らの身近にあるような、現実の世界です。

村上春樹さんの小説の世界では、『ねじまき鳥クロニクル』の作品以降、真っ暗で異世界へと通じる「地下の世界へとつながる穴」が頻繁に出てきます。それは、『騎士団長殺し』の世界にも登場し、村上春樹さんの世界観の象徴とも言える存在。

そう、そんな地下の世界こそが、「地下二階」の世界なのです。村上春樹さんは、地下一階という自我を中心とした世界をあえて避けるように、地下二階を丹念に描いている、と捉えると色々合点がいきます。

「できるだけわかりやすい言葉で、できるだけわかりにくいことを話す」。地下二階の世界の普遍性について

地下二階の世界は、マンホールの穴を下ろうとしたら足がすくむように、そう簡単には入れない世界。そんな世界を村上春樹さんはこんなことを心がけて書いているといいます。

とにかくわかりやすい言葉、読みやすい言葉で書こう。できるだけわかりやすい言葉で、できるだけわかりにくいことを話そうと。

地下二階の世界は、「わかりにくい」世界です。そんな世界でも多くの人の心に届いているのは、きっと村上春樹さんの「わかりやすい」文体があるからかもしれません。

本書ではその「文体」へのこだわりについて多く述べられているのはここでは省略しますが、そのようなこだわりをもって書かれている「地下二階の世界」は、僕も毎回引き込まれるポイントのひとつ。

「地下二階の世界」とは、例えるなら「原始時代にみんなが洞窟の中でストーリーテリングが行われている場面だ」とあります。

原始時代の語り手の話にも、現代の国民の心にもあるのは、「集合的無意識」です。ふだん、なんとなく考えていること、みんなが受け取っている物語、それらには多くの共通点があります。集合的であるからこそ、均質化してくるとも言えるかもしれません。

言い換えるのであれば、「イデア」的な存在です。村上春樹さんは「『騎士団長殺し』に出てくるイデアって言葉はそんなに定義づけられた意味合いじゃない」なんて言って川上未映子さんを驚かせている場面もありましたが、僕なりには地下二階の世界とは、「イデア」の世界です。

そんな誰もが意識の底で抱えている世界を鮮やかに描き出しているからこそ、世界的に多くの読者の共感を得ているのではないでしょうか。地下二階の世界は、そのように普遍的な世界というか、存在なのです。

金言が多すぎる

というようなことを、インタビューの中でピシャリと言い切っているのです。それも、たくさん。川上未映子さんのインタビューに臨む熱意が伝わってきたり、村上春樹さんにもフワフワとしたところがあったり、本心が垣間見えたりと、あまりにも良質なインタビュー本です。金言が詰まっています。

物語の真髄を、ぜひのぞいてみてください。